2201年、世界政府は凍結されていた宇宙開発に乗り出すことを決定した。
その一環として、企画検討されたのが、フロンティアプロジェクトである。
簡単に言うと、男女1名づつのカップルを乗せた宇宙船を太陽系外へ打ち出すという計画である。
22世紀半ばにも計画はされたのだが、何分片道航行の計画のため、
人道的な問題から計画は頓挫していたのである。
今回も人権団体から、人体実験に過ぎないと非難を浴びせられたが、
パイロット志願者の数の多さにその矛先は鈍っていったのである。
志願者数、全世界より実に4億2451万人余。
年齢、その他で、書類審査により、その99%以上がまず落とされた。
のこった400万人からさらに面接、テスト等で99.9%が落選。
残りの4000人が養成訓練学校に入学することになった。
10歳から13歳の少年、少女である。
選別は日々続き、最初の1年で半数の2000人が退学となり、
2年目でやはり半数が学校から消えた。
現在、在学生は、男性469人、女性531人である。
そして、あらゆる難関を突破した主席に、今回のパイロットが決定したのだ。
女性からは、惣流・アスカ・ラングレーという、アメリカ国籍の日系人。
男性は、ドイツ国籍のキール・ローレンツである。
500HIT記念SS 行け!アスカ 宇宙を越えて ジュン 2002.12.11 |
「ええぇっ!信じらんない!食中毒ぅっ!」
知らせを聞いたアスカは、目を吊り上げて大声を上げた。
「じゃ、打ち上げは中止なの?」
「いえ、この時期に中止となりますと、政治的、社会的、その他、色々と支障がありますので…」
「でも、パイロットは?みんな入院しちゃったんでしょ」
「いえ、それが…実は一人だけ…」
アスカは怒っていた。
宇宙開発局の長官にまで、食ってかかっていた。
「どうして、この主席の私が、ブービー野郎と乗り込まないといけないんですか?!
1番と468番ですよ。釣り合わないじゃないですか!」
「しかしだな。残りの998人は全て入院中だ。仮に今退院しても、3日後の打ち上げには間に合わん」
「でも…」
「468番といってもだな。この養成学校での席次だ。世間では超エリートなんだぞ」
「ふぅ…、仕方ないわね…あきらめてあげるわ…で、どんなヤツなの?そのブービー野郎は」
3日後。宇宙船は発射された。
そして、無事軌道に乗り、外宇宙への航行が始まったのである。
「どうだね、惣流くん。彼とは巧くやれそうかな?」
「はん!無理ですね。こんな落ちこぼれ。全然冴えてないし。ま、任務は全うしますから、ご心配なく」
「そ、そうか。まあ、先は長いから、なんとか仲良くやってくれたまえ」
「了解。なるべく、善処しますわ」
眉間にしわを思い切り寄せて、しかめっ面のままでアスカは通信を終了した。
こわばった笑顔の担当所員の顔がモニターから消えると、
アスカはセキュリティースイッチをONに切り換えた。
これで、コクピットの状況は記録されない。
そして、彼女は隣の席を見て…にっこりと笑った。
「シンジぃ〜。ごめんねぇ。性悪のアスカを許してぇ〜」
先ほどまでの冷徹な声が信じられないほどの甘え声である。
「そ、そんな…許すだなんて…」
「いやいや、許してくれなかったら、アスカ、困っちゃうよぉ〜」
「あ、あの…その…僕も困っちゃうんだけど…」
アスカは自分の座席から立ち上がると、シンジの膝の上にちょこんと座り込んだ。
「あの…こんな…惣流さん…」
「酷い!シンジったら、まだ私のこと、アスカって呼んでくれない!」
そう言うと、アスカはシンジの胸に顔をうずめてすすり泣きを始めた。
当然、半分以上、嘘泣きである。
碇シンジ。成績男子生徒469人中468番のブービー野郎。
素質はあるが人を押しのけて進めない、純朴な彼にアスカの芸など見抜けるわけがない。
「あああ、泣かないで下さい。呼びます。呼びますから!」
「ホント?」
アスカは彼の胸から顔をもたげた。
その紺碧の瞳は涙に濡れ、儚げな微笑を浮かべて、シンジを見つめている。
か、可愛い!
「あ、アスカ…さん」
「いや!アスカって呼び捨てにして」
「は、はい。じゃ…アスカ」
「うん!私、シンジのことだ〜い好き!」
「あ、あ、あ…。ぼ、僕は…」
シンジ陥落3秒前である。
その頃、地球では…。
「えええっ!し、シンジが、赤毛猿と行ったって!う、宇宙へ?」
「そ、そうなんですよ。ほら、新聞にも大きく出てます」
「そんな!私って彼女がいるのに!シンジ!シンジぃ!」
「あ、霧島さん!落ち着いて!きゃっ!暴れたら駄目です。あなたは一番重症なんですから!
誰か、手を貸して!鎮静剤を!」
霧島マナ。成績女子生徒531人中384番のごく普通(世間では超エリート)の訓練生。
ただし、碇シンジに熱を上げ、強引に彼氏彼女の関係に持ち込んだ。
そのため、アスカのエージェントに特別に薬を大盛りされた女子訓練生である。
片や、こちらはアスカのエージェントこと、赤木リツコ博士。
生物宇宙学の第一人者といわれる彼女が、何故アスカのエージェントに身を持ち崩したのか?
それは…。
「可愛いわね…やっぱり、猫はいいわぁ…!」
アスカから密かに1億円の報酬を受け、部屋中に溢れている猫グッズに囲まれてご満悦である。
彼女の開発した、原因不明型短期集中食中毒類似ウィルスが寄宿舎の全員に振舞われたのだ。
さらに、実行犯となったアスカのエージェントこと、葛城ミサト。
年甲斐もなくメイドに成済まして、まんまとウィルスを晩御飯に混入させたのは彼女である。
彼女への報酬である、えびちゅ月500本掛ける事の40年分(1億円分)。
そのえびちゅを立て続けに飲んで、彼女は愛する男の胸で豪快に鼾をかいている。
その彼女を胸に抱く男。加持リョウジ教官。
彼もまた、日本の農場を譲り受ける(1億円分)ことを条件に、アスカのエージェントとなった。
彼の役割は、無実のシンジを校則違反として懲罰室に隔離し、晩御飯を抜きにするという重要なものだった。
もし、シンジが晩御飯を口にすれば、すべての計画は台無しになる。
そのため、彼の行動は綿密に計画され、そして実行された。
シンジのベッドから、
えびちゅ(ミサト所有物)エロ本(加持所有物)を発見した加持が有無を言わさずに、
シンジを懲罰室に連行。
翌日の壮行会のため、全員集合していた食堂からシンジを隔離することに成功した。
カモフラージュのため、加持本人も少量のウィルス入りの食事を口にした念の入れようである。
彼の心は、農場に無限に広がる西瓜畑に飛んでいた。
惣流・アスカ・ラングレーは孤児だった。
従って、このパイロットに選ばれた報奨金3億円は使い道がなく、全てはこの計画に費やされたのだ。
全てはこの1週間前に始まったのだ。
「あ〜あ、何だか憂鬱。あんなのと死ぬまで二人きりだなんて…」
栄えあるパイロットに選出されて1ヶ月。
パートナーである、ローレンツとの交流が毎日繰り返されるのだが、
好感を持つどころか、嫌悪感が募るだけだった。
全ての人間を見下すその態度。
とくに日本人の血を受けているアスカへの明らかな侮蔑の感情を隠そうともしない、
その倣岸さには耐えられなかった。
そのアスカは、たった一人の肉親だった母と5年前に死別してから、
自分の能力を磨き、人より秀でていることを証明することで、アイデンティティを確立してきていた。
このパイロットに選出されるまで、それこそわき目も降らずに精進してきたのだ。
「その代償が、アイツに一生仕えるってことなの?どうせアイツは私をそんな風にしか見てないもん…」
アスカは訓練校の中庭のベンチに一人腰掛け、大きな溜息をついて秋の空を見上げた。
「今さら辞退なんかできないし…。どうしよ…」
いつも歯を食いしばって頑張ってきたアスカである。
他の生徒にも笑顔一つ見せず、彼女の友達になろうとする人間は一人もいなかった。
彼女もそういう友人を必要としなかったのだ。
こんなアスカが悩みを相談する相手など一人しかいない。
そのリツコに相談しても、どうせ『いやならやめれば』と言われるだけだし。
そのアスカの足元に、す〜と白いものが飛んできた。
何気なく拾い上げると、それは紙飛行機だった。
「あ、ごめんなさい!」
それが運命の出会いだった。
マナが待ち合わせに遅れ、手持ち無沙汰のシンジがノートでつくった紙飛行機を飛ばし、
それがたまたまアスカの足元に着陸した。
アスカは、これを二人の愛の出逢いと受け取り、その運命に感謝した。
シンジにとっては、青天の霹靂。
ただの災難だったのかもしれない。
マナに告白され、勢いで交際を始めたのだが、
何となくこれからず〜とマナと一緒にいることになるのかな?などと考えていた頃だった。
まさか、あの一言が彼の一生を決定してしまったとは、このときは全く考えていない。
その一言とは……。
「惣流さんって、笑うと、とても綺麗…いや、可愛いんだね」
そう言って、シンジは愛想笑いをアスカに向けた。
アスカにとっては、それは愛想笑いではなく、天使の微笑みに等しかったのだ。
この人だ…。
人はそれを思い込みという。
アスカはそれを神様のお導きと思った。
このとき、運命の歯車は音を立てて動き出したのだ。
といっても、動かしていたのはアスカただ一人だったのだが。
この時、一番戦力になったのは、パイロットに支給される3億円の報奨金である。
彼女はその3億円を全てこの計画に投げ出した。
まあ、その大金を残す相手もいなかったのも事実だが。
アスカは1人1億円で、3人の大人を買った。
孤独なアスカの心を理解していたリツコを拝み倒し、
その友人のミサトを実行犯として雇い、
シンジと仲の良い教官だった加持を口説き落とした。
そして、全てはアスカの計画どおり。
アスカが日本の首相と会食する発射4日前で、壮行会前日を狙った計画に洩れはなく、
右往左往する職員が懲罰室で空腹に耐えながら眠りこけているシンジを発見するのもシナリオ通り。
さまざまな理由から打ち上げを中止にできないことも予想通りだったし、
たった一人残った候補生のシンジをパイロットに選ぶのも当然の動きだった。
もし、後日この工作が発覚しても、アスカには手も足も出せない。
宇宙空間にいるから、どうしようもない。
呼び返す命令を出してもアスカが帰るわけもなく、せいぜい実行犯3人を処罰するのが関の山。
アスカはそこまで読んでいた。
リツコたち、尻尾つかまれなきゃいいけど…。
アスカは、一人、コクピットで眼前に広がる無限の宇宙を眺めていた。
シンジは仮眠室のベッドで横になっている。
まだ、一緒に眠るわけには行かないものね。
それは、もっと二人の仲が進展してから。
アスカはそう考えると、顔を真っ赤にした。
あのマナって子には悪いことをしたわね。
ま、可愛いし、明るい子だから、直にいい彼氏見つけるでしょう。
注)霧島マナ。
恋人を宇宙に連れ去られた悲劇のヒロインとして、タレントデビュー。 一躍スターダムにのぼり、以後世界的規模で活躍する。 5回結婚。8児有り。整形ボディとの噂も有り。
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うん。あの子がいるから、地球に残るわけには行かなかったのよ。
パイロットを辞退して、シンジにアタックしても良かったけど…。
恋愛だけは勝てる自信がないもん。
それに、この勝負には絶対に勝たないといけなかったから。
この広い宇宙の、この小さな宇宙船に、
私とシンジは二人きり。
死ぬまでずっと一緒。
ま、これだけのことしちゃったんだから、お仕事はちゃんとするわよ。
データを地球に送って…こんなデータ何に使うんだろ?
2人だけで何の事故も起こらなかったら、200年以上飛べるんだよね。
でも、飛べなくなる日…その日が来る事を考えたら、子供なんか作れない。
私たちだって、エイリアンに攻撃されて死んじゃうか。
隕石に激突されて木っ端微塵になるか。
そんなの全然わかんない。
もしかしたら、どこかの惑星に到着して、
その星のアダムとイブになっちゃうのかも。
あ、そうなったら、子供作ってもいいよね。
よし!頑張って探そう。
私とシンジの愛の星を!
ふふふ、断然やる気が出てきたわよ!
こうなったら、1分1秒でも早く見つけてやるんだから。
そして地球への、連絡はこうよ。
『今日もまた宇宙は全てこともなし 早く代わりのパイロット送れ 馬鹿シンジの顔なんか見たくない』
はん!開拓団なんかにこられちゃかなわないもんね。
その星は、私とシンジとその子供たちだけで平和に暮らすの。
そうね。名前がいるわね…。
惑星シンジ。惑星アスカ。う〜ん、何かパッとしないわね…。
あ!これがいいわ!
数千年後、地球からの開拓団は、
太陽系から8光年離れた星系に、
人間が住み、自然と調和し、平和に繁栄している惑星を発見した。
その惑星の名は、LAS。
惑星LAS神話の父神・母神は、シンジ・アスカと呼ばれる。
The End
<あとがき>
こんにちは、ジュンです!
またわけのわからないものを書いてしまいました。500HIT記念作というのに。とほほ…。
数千年でアスカが繁殖するかどうかわかりませんが、彼女のことだから何とかしてくれるでしょう。
地球からの開拓団が惑星LASの平和を乱さないことを祈ります。
次回予告! 『惑星LAS建国記』 2003年8月掲載開始 第1話はこちらまで |
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